バンブーガムランの音色に包まれて・・・
2005年9月11日 音楽ヌサドゥアの仄暗いホテルのバーカウンターに静かに座ってバリハイを飲んでいると、本当に今日一日、夢を見ていたんではないかと思った。見知らぬ青年との出会い。しつこくつきまとうパレオや絵の物売りの人懐っこい表情。ウブドゥスタイルの細密画、伝統舞踊、バンブーガムラン、そして本当の芸術とは・・・。
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闇に包まれたパダン・トゥガル集会所でのケチャックダンス。すごかった。パーカッシブに強くリズムを刻む何人もの声に、スリリングなハーモニーが絡む。一瞬息を呑んで動けなくなった。あのリズムの正確さと全体の完成度は一体どうなっているのか。単なる農民芸能なんかじゃない。あのテクニックをマスターするパワーの正体は一体何だろう。宗教からという理由だけでは理解できない何かがある。テクニックだけではない真の力を感じるから、人の心を動かす。しばらく聴く事に集中していると、トランス状態には及ばないまでも、何か未体験の感覚に支配されていくような気分になった。
興奮醒めないまま、闇に包まれたウブドゥをボーッとゆっくりと歩いた。やがて漆黒の闇の向こうに一条の仄灯りが見えた。その灯りに向かって歩き出すと、バンブーガムランの音色がかすかに聞こえてきた。どこかしら日本の古典の音階に似て、何と落ち着いた静かな音色なんだ。心の底から疲れが癒えていくようなメロディー。こんなすばらしい芸術があったのか。自分は今夢の中にいるのではないかと思った。音源に近づくことも遠ざかることもなく、現実と夢のはざまでいつまでもこうして歩いていたいと思った。
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こんなに印象深い旅の1日があっただろうか。たった1日の旅の経験が人の人生観を変えてしまう、そういうことって確かにあると思った。今回の旅で私は完全にアジアの不思議な魅力の虜になってしまった。欧米に憧れ、幾度か旅を重ねてきたが、自分が住むアジアにもこんなに素晴らしいところがあるということを思い知った。そしてそのことはアジア人としての誇りなのだ。旅先に住む人々にとっても、そこを旅する自分にとっても。本当の芸術とは?ウブドゥはそれを知っている。
ココナッツの香り漂うカウンターバーで、いつまでもまどろんでいたいと思った。
耳について離れない柔らかいバンブーガムランの音色に包まれて…。
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